【移転】移転すべき会社・すべきでない会社|判断を誤らないための実務視点

1. オフィス移転は「前向きな一手」とは限らない

オフィス移転は、成長や改革の象徴として語られることが多くあります。しかし実務の現場では、移転が必ずしも正解になるとは限りません。むしろ、移転を選ばない方が合理的なケースも少なくありません。

移転は多額のコストと社内リソースを伴う意思決定です。そのため、「何となく手狭」「雰囲気を変えたい」といった理由だけで進めると、期待した効果が得られず、負担だけが残ることになります。

本記事では、どのような会社が移転すべきで、どのような会社は移転すべきでないのかを整理し、判断を誤らないための実務視点を解説します。
 

2. そもそもオフィス移転とは何を変える行為なのか

オフィス移転を検討する際、まず整理しておくべきなのは、「移転によって何が変わり、何が変わらないのか」という点です。この整理が曖昧なままでは、移転後に期待と現実のギャップが生じやすくなります。

移転は大きな意思決定である一方、万能な解決策ではありません。だからこそ、その性質を正しく理解することが重要です。

(1)移転は課題解決の手段であって目的ではない

オフィス移転は、それ自体が成果を生む行為ではありません。本来は、現状の課題を解決するための数ある選択肢の一つにすぎません。にもかかわらず、「移転すれば状況が良くなるはずだ」という期待だけが先行してしまうケースは少なくありません。

実務では、課題が整理されていないまま移転を進めると、場所や内装は変わっても、業務の進め方や不満点はそのまま引き継がれてしまいます。移転は魔法のように問題を解消するものではなく、課題が明確であって初めて意味を持つ手段だという認識が欠かせません。

(2)移転によって変わるのは環境であり業務そのものではない

オフィス移転によって直接変えられるのは、立地、面積、レイアウト、設備といった「環境」の部分です。一方で、業務プロセスや意思決定の仕方、コミュニケーションの質といったものは、移転だけで自動的に変わるわけではありません。

そのため、業務の進め方や働き方を見直さないまま移転すると、「きれいになったが使いにくい」「期待したほど効率が上がらない」といった不満が生じやすくなります。移転は環境を変える行為であり、業務を変える行為ではないという前提を理解しておくことが、判断を誤らないための重要な視点です。
 

3. 移転すべき会社の特徴

オフィス移転が合理的な判断になる会社には、いくつかの共通した状況があります。重要なのは、成長しているかどうかや規模の大小ではなく、現在のオフィスが事業や業務の足かせになっているかどうかです。

移転はコストも負担も大きいため、「不便だから」「古いから」といった感覚的な理由ではなく、構造的な制約があるかを見極める必要があります。

(1)現オフィスが業務の制約条件になっている

席数不足や会議室不足、動線の悪さなどが原因で、日常的に業務効率が下がっている場合、移転による改善効果は大きくなります。単なる使いにくさではなく、業務スピードや成果に影響が出ている状態が判断基準になります。

この段階では、レイアウト変更や運用改善だけでは限界があり、現オフィス内での対応が難しくなっているケースが多く見られます。

(2)働き方・組織構造とオフィスが乖離している

出社率の変化やハイブリッドワークの定着、部門再編などにより、現在のオフィス設計が実態と合わなくなっている場合も、移転を検討すべき状況です。特に、固定席・常時出社を前提としたオフィスでは、働き方とのズレが顕著になります。

このズレは運用で無理にカバーすると負荷が増え、結果として不満や非効率につながりやすくなります。

(3)中長期戦略と物理的環境が噛み合っていない

事業拡大や人員計画と、オフィスの立地・面積・契約条件が合っていない場合も、移転を検討すべき状態です。たとえば、拡張余地がない建物に入居している場合、将来の選択肢が制限されます。

オフィスは短期視点ではなく、中長期戦略を実行できる環境かどうかで判断する必要があります。

(4)移転以外の手段では解決できない課題が明確にある

ここで、移転を検討すべき会社に共通する状態を整理します。

<移転を検討すべき状態の代表例>

  • 物理的制約により業務改善ができない

  • 設備・インフラの更新が構造的に困難

  • 立地条件が事業活動と合っていない

  • 将来の拡張・縮小に対応できない

これらに当てはまる場合、部分的な改善ではなく、環境そのものを変える選択肢として移転を検討すべき段階に入っていると言えます。
 

4. 移転すべきでない会社の特徴

オフィス移転は、課題解決の有効な手段になり得る一方で、状況によっては「やらない方が合理的」な判断になることもあります。特に、移転によって解決できない課題を抱えている場合や、他の手段で十分対応できる場合は注意が必要です。

ここでは、実務上「今は移転すべきではない」と判断されることが多い会社の特徴を整理します。

(1)課題が曖昧なまま移転を検討している

移転検討のきっかけが、「古く感じる」「雰囲気を変えたい」「周囲が移転している」といった感覚的な理由だけの場合、移転後に不満が残りやすくなります。課題が明確でないままでは、移転先で何を改善すべきかも定まりません。

この状態で移転を進めると、「結局何も変わらなかった」「思ったほど効果がなかった」という結果になりやすく、コストに見合わない判断になってしまいます。

(2)現オフィスで改善できる余地が十分に残っている

業務効率の低下や使いづらさを感じていても、その原因がレイアウトや運用にある場合、移転せずとも改善できるケースは少なくありません。レイアウト変更や座席運用の見直しで解決できる問題であれば、移転は過剰な選択になります。

ここで、移転をしなくても対応できるケースを整理します。

移転せずに改善できる代表的なケース

課題の内容

想定される対応策

会議室が足りない

レイアウト変更・利用ルール見直し

席が使いづらい

座席配置・運用改善

コミュニケーション不足

空間の使い分け・動線調整

一部スペースの無駄

面積配分の見直し

このように、課題の原因が「場所」ではなく「使い方」にある場合は、移転よりも現オフィスの改善を優先すべきです。

(3)コスト負担に対する効果が見合わない

移転には、内装費・引越費用・原状回復費など、多額の初期コストが発生します。これらに対して、得られる効果が限定的である場合、移転は経営的に合理的とは言えません。

特に、業務内容や働き方が大きく変わっていない状況では、移転による改善効果は一時的になりやすく、費用対効果が低くなる傾向があります。

(4)移転を「雰囲気改善の手段」として捉えている

オフィス移転を、気分転換やイメージ刷新の手段として捉えている場合も注意が必要です。デザインや立地が変わっても、業務の進め方や組織の課題が変わらなければ、根本的な改善にはつながりません。

移転はあくまで環境を変える行為であり、組織や業務を変える魔法の手段ではないという認識を持つことが重要です。
 

5. 移転判断を誤らせる典型的な思い込み

オフィス移転の検討では、数字や条件以上に「思い込み」が判断を歪めてしまうケースが少なくありません。特に、過去の成功体験や一般論に引きずられると、自社の状況に合わない判断をしてしまうことがあります。

ここでは、実務でよく見られる代表的な思い込みを整理します。

(1)移転すれば自動的に業務効率が上がるという思い込み

オフィスを移転すれば、業務効率や生産性が自然と向上すると考えてしまうケースは非常に多く見られます。しかし、移転によって変わるのは環境であり、業務プロセスそのものではありません。

業務の進め方や役割分担、コミュニケーションの方法を見直さないまま移転しても、非効率な構造は新しいオフィスにそのまま持ち込まれてしまいます。移転は効率化のきっかけにはなりますが、効率化そのものではないという認識が欠かせません。

(2)立地やデザインが良ければ満足度は上がるという思い込み

立地の良さや洗練されたデザインは、確かに第一印象や対外的な評価には影響します。ただし、それだけで社員の満足度や働きやすさが継続的に高まるとは限りません。

見た目や条件だけを重視して選ばれたオフィスは、入居後に「使いにくい」「業務に合っていない」といった不満が出やすくなります。日常的に使われる視点が欠けている判断は、移転後のギャップを生みやすくなります。

(3)今の不満はすべて移転で解消できるという思い込み

現オフィスに対する不満が多いと、「移転すれば一気に解消できる」と考えてしまいがちです。しかし、実際には移転で解消できる不満と、そうでない不満が混在しています。

ここで、移転だけでは解消しにくい代表的な不満を整理します。

<移転だけでは解消しにくい不満の例>

  • 業務フローそのものが非効率

  • 意思決定に時間がかかる

  • 部門間の連携不足

  • 運用ルールが曖昧

これらは、環境よりも組織や運用の問題であり、移転だけでは改善しません。課題の原因を切り分けずに移転を選ぶことが、判断ミスにつながります。

(4)「今やらないと遅れる」という焦りによる判断

更新期限や周囲の動きに影響され、「今決めなければならない」と焦って移転を決断してしまうケースもあります。もちろん、タイミングは重要ですが、焦りが判断の質を下げることもあります。

移転は長期的な影響を伴う意思決定です。一時的な状況に引きずられず、本当に今が最適なタイミングなのかを冷静に見極める視点が必要です。
 

6. 不動産・コスト視点で見る移転判断の整理

オフィス移転は、働き方や環境を変える判断であると同時に、長期的な不動産コストをどう使うかという経営判断でもあります。感覚や雰囲気だけで進めると、移転後にコスト負担の重さが顕在化しやすくなります。

そのため、移転を検討する際には、移転前後の不動産コストを構造的に整理する視点が欠かせません。単純な賃料比較ではなく、全体像を見ることが重要です。

ここでは、移転判断におけるコストの整理ポイントをまとめます。

移転判断とコストの関係整理

観点

確認すべきポイント

賃料

面積と稼働率の整合

初期費用

内装・移転コスト

契約期間

利用想定との一致

現オフィス

解約・原状回復費

この表から分かるように、移転の是非は「新しいオフィスが高いか安いか」だけで判断できるものではありません。たとえば、賃料が下がっても初期費用が大きければ、短期的には負担が増えることもあります。

また、現オフィスの解約費用や原状回復費は、見落とされやすいコストです。これらを考慮せずに移転を進めると、想定外の出費が発生し、社内の納得感を得にくくなります。移転は「新しい契約」と「古い契約の終了」を同時に考える必要がある判断です。

さらに重要なのは、契約期間と利用想定の整合性です。短期間の利用しか想定していないにもかかわらず、長期契約や高額な内装投資を行うと、後から柔軟性を失うことになります。コストは金額だけでなく、将来の選択肢を縛る要素でもあるという認識が欠かせません。

不動産・コスト視点で移転判断を整理することで、「今移転すべきか」「別の手段を取るべきか」がより明確になります。移転を感覚的な判断にせず、数字と構造で説明できる判断に落とし込むことが、後悔しない移転につながります。
 

7. 移転判断が上手い会社の共通点

移転の成否は、物件選定やデザイン以前に、判断の進め方そのものでほぼ決まります。移転判断が上手い会社は、特別な知識を持っているというよりも、判断の軸が整理されており、感情や雰囲気に流されにくい点が共通しています。

こうした企業では、「移転ありき」で話が進むことはなく、あくまで課題解決の手段として移転を位置付けています。そのため、移転をしないという結論に至る場合でも、社内の納得感が高く、意思決定がぶれにくくなっています。

ここでは、移転判断が上手い会社に共通する考え方を整理します。

<移転判断が上手い会社の考え方>

  • 課題を先に言語化している

  • 移転以外の選択肢も検討している

  • 働き方と空間をセットで考えている

  • コストを短期と長期で整理している

これらの会社では、「なぜ移転を検討するのか」「移転で何を解決したいのか」が明確です。そのため、物件条件やデザインの話に進んでも判断軸がぶれず、選択肢を冷静に比較できます。移転を目的化していないことが、判断の質を高めています。

また、移転以外の手段を同時に検討している点も重要です。レイアウト変更や運用改善、部分改修といった選択肢を比較したうえで移転を選ぶため、「本当に移転が必要だったのか」という後悔が生じにくくなります。

さらに、コストについても、初期費用だけでなく、契約期間や将来の柔軟性まで含めて整理しています。短期的に安く見える選択が、長期的には制約になることを理解しているため、判断が表面的になりません。

移転判断が上手い会社に共通しているのは、スピードや大胆さではなく、説明できる判断を積み重ねている姿勢です。この姿勢があることで、移転をしても、しなくても、結果に対する納得感が高い意思決定が可能になります。
 

8. まとめ

オフィス移転は、すべての会社にとって正解になる選択ではありません。移転すべき会社と、移転すべきでない会社の違いは、規模や成長性ではなく、現状の課題が移転によって本当に解決できるかどうかにあります。

現オフィスが業務の制約になっており、働き方や組織の変化と明確なズレが生じている場合、移転は有効な手段になります。一方で、課題が曖昧なままの移転や、改善余地を検討せずに進める移転は、期待外れに終わる可能性が高くなります。

重要なのは、移転を目的化せず、課題と手段を冷静に切り分けることです。オフィス移転は「変えるべきときに、必要な範囲で行う」ことで、初めて意味のある判断になるでしょう。

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