【退去】原状回復のルールとトラブル回避のポイント 〜退去時の費用を最小限に抑えるための実務ガイド〜
1. 退去時に“思わぬ出費”が発生する理由
オフィスや店舗の移転・退去において、多くの企業を悩ませるのが「原状回復費用」です。契約書には「原状回復義務」と明記されているものの、その範囲や基準が曖昧なまま進めてしまうと、退去時に想定外の高額請求を受けることも珍しくありません。
特に、オフィスの場合は内装・設備・配線などの工事が複雑に関係しており、住宅のように一律の基準が存在しないため、契約内容と実際の解釈にズレが生じやすいのが現状です。
本記事では、原状回復に関する基本的な考え方から、実際にトラブルが起きやすい場面、そして費用を抑えるための具体的な対策までを体系的に解説します。退去直前に慌てないように、今からでも確認しておくべきポイントを整理していきましょう。
2. 原状回復とは何か|定義と法的な基本ルール

原状回復の基本的な考え方
「原状回復」とは、借りた物件を返還する際に、契約当初の状態に近い形に戻すことを指します。ただし、ここで言う“契約当初の状態”とは、単純に「新品同様に戻す」ことではありません。
重要なのは、「通常の使用によって生じた自然な損耗や経年劣化を除いた範囲」で修繕するという点です。
つまり、日常的な使用で発生する汚れや色あせなどは借主の負担ではなく、あくまで「借主の故意・過失・不適切な使用」による損傷を補修することが、原状回復の目的となります。
法的根拠:民法とガイドライン
原状回復義務は、民法第621条に明記されています。
民法第621条(賃貸人の修繕義務)
賃借人は、賃貸借契約の終了時に、賃借物を原状に復して返還しなければならない。
ただし、民法では具体的な修繕範囲が明確に定義されておらず、その判断は「契約内容」や「社会通念」に基づいて行われます。そのため、オフィスや店舗などの事業用物件では、契約書での取り決めが事実上の優先ルールとして扱われるのが実務上の運用です。
「どこまでを借主負担とするか」「工事を誰が実施するか」などは、契約書の特約や覚書によって個別に定められている場合が多いです。
参考:e-Gov 法令検索|民法(第621条)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089#
オフィス賃貸での実務的な違い
オフィス物件では、住宅と異なり「スケルトン返却」または「居抜き返却」といった形態が採用されることがあります。
◆スケルトン返却
内装・設備・照明などをすべて撤去し、入居前の何もない状態(コンクリートむき出しなど)に戻して明け渡す方式。内装工事費が高くなりやすいが、次の入居者が自由にレイアウトできるメリットがあります。
◆居抜き返却
一部の内装や設備を残したまま退去し、次の借主がそれを活用できる方式。工事コストや時間を抑えられるうえ、引き継ぎ条件次第では原状回復費を軽減できる場合もあります。
スケルトン返却では、床・壁・天井・照明・空調などをすべて撤去する必要があるため、費用が高額になりやすい傾向があります。
契約書で「スケルトン状態」と記載されている場合は、原状の基準点を入居前に確認し、写真で記録しておくことが非常に重要です。
原状回復は「法律+契約内容」で決まります。
法的ルールを理解したうえで、個別契約の条文を丁寧に確認することが、後のトラブル防止につながります。
3. オフィス退去で発生する原状回復費用の内訳

原状回復費用の多くは、「見えない部分」で高額になりがちです。
ここでは、一般的なオフィス退去時の費用項目を整理します。
|
項目 |
内容 |
費用目安(参考) |
|
壁・天井 |
クロス張り替え、塗装、下地補修 |
約1,000〜2,500円/㎡ |
|
床材 |
タイルカーペット・塩ビ床の張替え |
約3,000〜6,000円/㎡ |
|
電気設備 |
照明・コンセント・配線撤去 |
約5〜15万円/室 |
|
空調・給排気 |
天井カセット型エアコン撤去・整備 |
約10〜30万円/台 |
|
原状復旧工事 |
パーテーション・間仕切りの撤去、造作復旧 |
約50〜150万円/室 |
|
廃棄物処理 |
不要家具・什器・OA機器処分 |
数万円〜規模により変動 |
注意すべきポイント
✔オフィス仕様の床や天井は高コストになりやすい
特注素材や防音構造の場合、住宅よりも費用がかかります。
✔電気・空調工事は専門資格が必要
「自社で撤去できる」と思い込み、結果的に追加費用が発生する事例も多くあります。
費用の中心は「仕上げ材」「設備」「廃棄物」です。
特に造作・電気・空調関連は早期に見積もりを取得しておくことが重要です。
4. トラブルが起きやすいポイントと原因

原状回復のトラブルは、ほとんどが「認識のズレ」から生じます。
特に以下の3点は要注意です。
① 契約内容の曖昧さ
契約書に「原状回復一式」などとしか記載がない場合、どの範囲まで借主負担かが不明確になります。
明文化されていない場合は、事前に確認書を作成しておくのが理想です。
② 工事範囲の認識違い
「壁だけ直せば良いと思っていたが、床も交換対象だった」という誤解はよくあります。
管理会社やオーナーの立会い時に、明確な口頭合意と記録(議事録・写真)を残すことが肝心です。
③ 工期・引渡し期限のトラブル
工事期間が契約の引渡し期限を過ぎてしまうと、賃料の二重発生(違約金)につながる場合があります。
余裕をもって1か月以上前からスケジュールを確定しておきましょう。
トラブルの多くは「想定不足」が原因です。
契約書・現場確認・スケジュールを3点セットで管理することが、防止の基本です。
5. 原状回復トラブルを防ぐための対策

対策①:入居時に現状を記録しておく
入居時の写真・動画・内装仕様書を保管しておくことで、「入居時にすでにあったキズ・劣化」を証明できます。後の費用負担を減らす有力な証拠になります。
対策②:見積もりは必ず複数社で比較
原状回復工事は業者によって金額差が大きい分野です。管理会社指定業者だけに依頼するのではなく、相見積もりを取得し、作業範囲・単価・スケジュールを比較検討しましょう。
対策③:退去前の“中間立会い”を実施
退去の1〜2か月前に、オーナー・管理会社・施工業者が揃って確認を行うことで、後の追加工事を防げます。早めに合意を取ることで、余計な再施工や追加費用を回避できます。
対策④:専門家や第三者のアドバイスを活用
原状回復の範囲や妥当性は専門的な判断が必要な場合もあります。不動産コンサルタントや建築士に相談することで、交渉時の根拠を持った対応が可能になります。
トラブルを防ぐ最大のポイントは「事前の情報整理と早期交渉」です。
退去が近づいてから慌てるのではなく、契約書確認→記録→立会い→比較検討の順で進めましょう。
6. まとめ

原状回復は、退去直前に行うものではなく、契約時点から準備が始まるプロセスです。契約条項の確認・現状の記録・費用見積もり・立会い調整、 これらを早期に行うことで、不必要な費用や時間的ロスを防ぐことができます。
また、近年では「スケルトン返却」や「原状回復一部免除」など、柔軟な契約形態も増えています。交渉次第でコストを抑えられるケースもあるため、事前の確認と合意形成を怠らないことが最も重要です。
オフィスの退去は新しいスタートでもあります。トラブルのないスムーズな引渡しを実現し、安心して次のステージへ進むためにも、今のうちから原状回復の正しい知識を身につけておきましょう。
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