【リスク】オフィスビルの耐震性能|IS値・新耐震・制震の違いを徹底解説

1. オフィスビルに求められる耐震性能の重要性

近年の企業活動において、オフィスビルの安全性は経営リスクマネジメントの重要要素となっています。事業継続性(BCP)の観点において、地震による建物の損傷や設備停止は企業活動に甚大な影響を及ぼします。

特に日本では、南海トラフ地震や首都直下地震が高い確率で発生すると予測されており、オフィスビルの耐震性能を正しく理解し、適切に評価することは、企業が拠点選定や投資判断を行う上で欠かせない要素です。

耐震性能の判断指標には、一般的に「新耐震基準」「IS値」「制震(免震を含む)構造」という三つがよく用いられます。これらはそれぞれ異なる役割や評価範囲を持っており、単一の基準だけで建物の強さを判断することは適切ではありません。

本記事では、これら三つの概念の違いを整理しつつ、企業が知っておくべき耐震評価のポイントを多角的に解説します。
 

2. 新耐震基準とは何か

新耐震基準は、1981年(昭和56年)に導入された、建築物の耐震設計に関する基本ルールです。

旧耐震基準では震度5程度の地震動を想定していましたが、新耐震基準では「中規模地震で損傷しない」「大地震で倒壊・崩壊しない」という二段階の安全性が求められています。

(1)新耐震基準の背景と目的

1978年の宮城県沖地震をきっかけに、多くの建物で構造的損傷が報告され、従来基準の見直しが急務となりました。新耐震基準は以下の二点を目標としています。

  • 中規模地震:構造体に損傷が生じない

  • 大規模地震:倒壊・崩壊を防ぎ、人命を守る

この「倒壊しないこと」が基準の中心であり、事業継続性までを保証するものではありません。そのため、基準を満たしていても大地震後にオフィスとして使用できるかは別問題となります。

(2)新耐震基準の限界

新耐震基準は最低限の安全基準です。建物の損傷や長期使用の可否までは保証しないため、企業がBCPを重視する場合には、追加の耐震評価や補強、制震化などが求められます。
 

3. IS値(構造耐震指標)とは何か

IS値は、既存建物の耐震性能を数値化した指標です。

耐震診断によって算定され、建物がどの程度の地震動に耐えうるかを示します。

(1)IS値の算定方法と意味

IS値は以下の式で表されます。

IS=構造耐力指標(E0)×形状指標(SD)×経年指標(T)

  • E0:柱・梁など構造部材の強さ

  • SD:建物形状による地震力の影響

  • T:劣化度合いを反映

一般的には IS値が0.6以上で倒壊の危険が低いとされ、0.3未満は危険性が高いと判断されます。オフィスビルの取引や賃貸では、IS値の開示を求める企業も増えており、建物選定の重要指標となっています。

(2)IS値を読み解く際のポイント

ただし、IS値はあくまで「倒壊リスク」を評価する指標です。地震後に業務を継続できるかという観点では別途の評価が必要になります。

また、診断手法によって精度が異なり、改修履歴なども考慮する必要があります。
 

4. 制震構造とは何か

制震構造は建物自体にダンパー(減衰装置)を組み込み、地震エネルギーを吸収・減衰させる仕組みです。

(1)制震構造の仕組み

制震構造は、揺れを完全に免れる免震構造とは異なります。建物は揺れるものの、ダンパーが変形エネルギーを吸収し、構造体の損傷を低減することができます。

代表的なダンパーには以下があります。

  • オイルダンパー
  • 鋼材ダンパー
  • 粘性ダンパー

これらの設置により、震度6〜7クラスの大地震でも内部構造の損傷を抑え、地震後の建物利用継続性を高めます。

(2)制震構造のメリット

制震構造には以下の利点があります。

  • 既存ビルにも導入可能

  • 建物の損傷を抑えるため長寿命化に寄与

  • BCP対策として高い評価

  • 建物の変形を抑えテナントの什器転倒対策にも効果

企業がオフィスを選ぶ際に、制震構造が採用されているかどうかは大きな判断材料となりつつあります。
 

5. 新耐震・IS値・制震の関係

これら三つは「どれが強いか」という単純比較ではなく、役割が異なる指標・仕組みとして理解する必要があります。

(1)比較のポイント整理

  • 新耐震基準:建物の設計ルール

  • IS値:既存建物の耐震性能の定量評価

  • 制震構造:揺れを抑え損傷を軽減する構造技術

新耐震基準を満たしていても、IS値が低ければ補強が必要な場合があります。また制震化を行うことで、IS値では測れない「揺れの少なさ」や「損傷抑制」が実現します。

(2)BCPの観点での違い

企業が重要視すべきは「倒壊しない」ではなく「早期に業務再開できるか」です。この観点では制震ビルが最も優位とされます。IS値が高くても、構造体以外の内装や設備の損傷が大きければ業務継続は困難になります。そのため総合的な評価が不可欠です。
 

6. オフィスビル選定における耐震性能確認のポイント

企業がオフィス移転や拠点新設を行う際、耐震性能の評価は、単に建物の安全を確認する作業にとどまらず、「事業継続性をどれだけ確保できるか」を判断する重要工程です。BCPの観点が強まる中で、多くの企業が“働き続けられるオフィス”を条件とするようになっており、耐震性能は物件選定の最上位要件のひとつとして扱われています。

しかし、耐震評価は専門性が高く、建築年だけで判断すると見誤る可能性があります。そのため、以下のように複数の観点から情報を集め、総合的に評価する姿勢が求められます。

(1)確認すべき基本情報

オフィスビルを選定する際には、まず次のような基礎的な耐震関連情報を確認する必要があります。

建築年(1981年以降かどうか)

1981年以降の建物は新耐震基準の適用対象となりますが、竣工年度だけでなく、構造計算書や当時の設計思想も踏まえる必要があります。特に大規模な用途変更や増築が行われている場合は注意が必要です。

大規模修繕の履歴

築年数が経過していても、耐震補強や制震化が実施されている建物は、実質的に耐震性能が向上している場合があります。補強方法の種類(ブレース増設、外付けフレーム、制震ダンパー追加など)によって性能向上の度合いも異なるため、詳細な説明をオーナー側に求めることが有効です。

IS値および耐震診断報告書の有無

既存不適格建物の場合、IS値の開示を求めることが重要です。IS値が0.6以上であっても、建物の規模や構造形式によって揺れ方が変わるため、診断報告書の記載を精読し、地震時の具体的な挙動を把握することが望まれます。

制震・免震の採用状況

単なる耐震構造に比べ、制震・免震化された建物は地震後の業務再開性が高く、BCPの観点から高評価です。特に制震構造は既存ビルにも導入できるため、近年は多くの中規模オフィスビルで採用が進んでいます。

過去の地震による被害履歴

大規模地震を経験した地域では、被害歴の有無が建物の状態を判断する重要な材料になります。修繕記録と併せて確認することで、構造体の健全性をより正確に把握できます。

これらを総合的に判断し、リスクの低い物件選定が求められます。

(2)追加で確認すべき周辺要因

耐震性能を判断する際は、建物そのものに加え、外部環境の耐震性や災害対策も同様に重要です。度重なる地震災害の教訓から、企業が注視すべきポイントは以下の通りです。

地盤の強度と地形の特性

軟弱地盤は揺れが増幅しやすく、液状化のリスクも高まります。自治体の地盤情報やハザードマップを確認し、必要に応じて地盤調査結果を入手することが推奨されます。

電力・通信インフラの耐震性 

業務継続には電力と通信の確保が不可欠です。受変電設備や通信幹線ルートの保護状況、非常用発電機の容量・稼働時間などを確認することで、地震時の対応力が把握できます。

建物内の非構造部材の固定状況

実際の地震被害では、天井材・間仕切り壁・設備配管の落下や破損が事業継続の大きな阻害要因となります。非構造部材の耐震化は、BCPレベルのオフィスでは必須項目です。

帰宅困難者対策や防災備蓄の体制

地震発生後、従業員がビル内に留まる可能性が高いため、休憩スペース、防災備蓄、給水設備などの整備状況も評価対象となります。

地域インフラの復旧力

建物が無事でも周囲の道路が寸断されれば、物流や通勤が停止し、事業は止まってしまいます。自治体の災害対応計画や近隣の重要インフラの耐震性も確認すべきポイントです。

(3)総合的な判断の必要性

耐震性能の評価は、単に「基準を満たしているか」「IS値はいくつか」という一軸の判断では不十分です。企業は以下の3つの観点を統合し、ビルの適性を判断することが求められます。

  • 構造安全性(倒壊しないか)

  • 継続利用性(建物はどの程度損傷を受けるか)

  • 事業継続性(地震後にオフィスが機能するか)

さらには企業の業種・業態によって重視するポイントも異なります。例えば、IT企業やコールセンターなど通信が生命線となる業態では、耐震性と同等以上に通信インフラの強靱性が求められます。一方、来客が多い企業であれば、エレベーターの耐震性や避難動線の確保なども重要視されます。

総じて、オフィスビルの耐震性能は「合格・不合格」で判断する性質のものではなく、多角的な評価と優先度整理が必要となります。
 

7. 既存ビルの耐震改修と制震化の動向

既存ビルの耐震改修は、老朽化対策と資産価値向上を同時に実現する取り組みとして重要性が高まっています。

地震リスクが顕在化する中で、改修により建物の安全性を向上させることは、テナント確保や長期運用の観点からも必要不可欠となっています。

(1)耐震改修の手法

耐震改修には、外付けフレームの増設、鉄骨ブレース追加、壁増設、制震ダンパーの設置など多様な手法があります。工法選定は建物の構造形式や利用状況に応じて最適化され、コストと効果のバランスが重視されます。

主な手法は以下の通りです。

  • 外付けフレームによる補強

  • 鉄骨ブレースの増設

  • 壁増設による剛性向上

  • 制震ダンパーの追加

特に制震ダンパーの追加は、建物の揺れを効率的に低減でき、テナントの営業を止めずに施工できるケースも多いため導入が進んでいます。改修後は構造体の負担が軽減されることで建物寿命が延び、長期的な維持管理コストの削減にもつながります。

(2)市場の評価と資産価値への影響

耐震改修や制震化を実施したビルは、市場での競争力が向上し、テナントからの信頼を獲得しやすくなります。安全性の高さは入居検討の優先条件となり、賃料の下落防止や空室率の改善に寄与します。

近年はESG投資やレジリエンス重視の潮流も追い風となり、耐震性能の高いビルは投資家からの評価が上昇しています。結果として、改修を行った物件は市場価値が安定し、長期保有資産としての魅力も増す傾向が見られます。
 

8. まとめ

オフィスビルの耐震性能は、企業の安全確保だけでなく、事業継続性を左右する重要要素です。新耐震基準は最低限の安全性を示し、IS値は既存建物の倒壊リスクを数値化し、制震構造は地震後の利用継続性を高めます。これらは互いに補完し合う指標であり、単独では十分な評価ができません。

建物の構造性能だけでなく、補強履歴、非構造部材の固定、周辺インフラの強さなど、複数の観点を総合し判断することが求められます。企業が重視すべきポイントは、「倒壊しないこと」から「業務を止めないこと」へとシフトしています。

耐震性能を正しく理解し、適切に評価したオフィス選びは、企業のリスク低減と競争力強化に直結します。 BCPの観点を踏まえ、より安全で強靱なビルを選択することが、これからの企業に求められる重要な戦略となります。

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