【経営】完全リモートから「出社回帰」へ|オフィス再評価の背景と企業の成功事例
1. 完全リモートから出社回帰へ──企業が直面した現実
コロナ禍を経て、多くの企業がリモートワークを急速に導入し、短期間で「働く場所の自由化」が進みました。
しかし2023年以降、世界的に “出社回帰” の動きが明確に進行しています。完全リモートを採用していた企業ですら、段階的に出社比率を高める方向へ舵を切り始めました。その背景には、リモートワークだけでは解消しきれない“組織力の低下”や“生産性のばらつき”が浮き彫りになったことがあります。
特に、チーム間の連携不足、若手育成の遅れ、組織文化の希薄化といった課題は、完全リモート環境で顕在化しやすく、業績や事業スピードに影響するケースも出ています。こうした状況から、企業が改めて「オフィスの価値」を再評価し、出社の重要性を再認識し始めているのです。
2. 出社回帰が進む背景とは

出社回帰の潮流には、単純なトレンドではなく、組織運営や人材育成の観点から見ると非常に本質的な理由が存在します。企業がリモートワークの利点を認めつつも、完全リモートから引き戻す判断をするのは、経営課題の多くが「対面の価値」と深く結びついているためです。
ここでは、代表的な背景を整理しながら、なぜ今多くの企業がオフィス回帰に舵を切っているのかを明らかにします。
(1)コミュニケーション密度の低下
リモート環境では「必要最低限の会話」は成立するものの、業務の質を高めるための雑談や偶発的な気づきは生まれにくくなります。特に、直接の対話が減ることで、相手の温度感や状況を読み取りにくくなり、微妙な調整やすり合わせが難しくなるという課題も指摘されています。このような積み重ねは、気づかぬうちにチーム全体のスピードや連携力を低下させてしまうことにつながります。
具体的には、以下のような問題が挙げられます。
- 情報共有が遅れる・届かない
- チームの一体感が弱まる
- 意思決定のスピードが鈍化する
こうした状況に直面した企業の多くが、「やはり対面コミュニケーションこそが組織を強くする」 と再認識し、出社比率を引き上げる方向へ舵を切り始めています。
(2)育成・評価の難しさ
若手社員や新入社員の育成は、対面でのフォローがあるほどスムーズに進みます。完全リモートでは“教えるタイミング”が掴みにくく、結果として育成の速度が落ちたり、本人の成長実感が得られにくいという問題が生じます。また、ちょっとした質問がしにくい環境は、新人にとって大きな心理的ハードルとなります。
そのため企業は、育成における 「偶発的な学び」「横のつながり」 を回復させる必要性を強く感じています。
評価の観点でも、オンライン業務では成果の見えにくさや評価者とのコミュニケーション不足による不公平感が生じることがあります。企業側としても、働きぶりを総合的に判断するためには対面での観察や対話が不可欠だと再認識されており、出社環境が育成と評価の精度向上を支える基盤として見直されつつあります。
3. オフィスが持つ価値の再評価

出社回帰の動きが進む中で、企業は単に“場所としてのオフィス”ではなく、働き方を支える“戦略資産としてのオフィス”を再評価し始めています。リモートワークで得られた利便性を認めつつも、それだけでは補えない価値がオフィスには存在します。
特に、組織の活性化、人材育成、文化醸成といった領域では、対面の力が非常に大きく、オフィスは見直すべき重要な基盤であるという認識が強まっています。
(1)オフィスは連携と深化の“触媒”
オフィスは、単に業務を行う場ではなく、“人が集まることで知識が混ざり、新しい価値を生む場” へと進化しています。対面での会話はオンラインでは得にくいスピード感や臨場感があり、プロジェクトの推進力を高める働きを持っています。特に複数部門が関わる案件では、些細な相談や表情・空気感から生まれる微調整が成果に直結するため、オフィスは協働の質を引き上げる不可欠な役割を担います。
また、オフィスは“偶発的な出会い”を生み出すことで、新たな発想や知見共有を促す場にもなります。意図せず人と交わる瞬間は、リモート環境では生まれにくいものです。こうした自然発生的な交流が組織全体の創造性を高め、結果的に事業スピードの向上につながる点が、企業がオフィスを再評価する大きな理由となっています。
(2)企業文化を作り、染み込ませる空間として
リモート中心の働き方では、社員が企業文化に触れる機会が減り、帰属意識が薄れやすくなります。そのため、オフィスは文化を“体験する場所”として再び注目されています。共通の空間で働き、同じ価値観や行動様式を感じ取ることで、社員は組織への一体感を育みやすくなります。
また、オフィスのデザインは企業の理念やビジョンを視覚的に伝える効果があり、空間そのものがブランドメッセージとして機能します。
さらに、日常的な何気ないコミュニケーションが文化を維持する要素となるため、オフィスでの直接の交流は“文化継承の接着剤”となります。新入社員や中途社員にとっても、オフィスに身を置くことで会社の価値観をつかみやすく、組織への適応速度が高まることから、企業は「文化浸透におけるオフィスの不可欠性」を改めて認識しています。
4. 出社回帰を成功させるためのオフィス施策

出社を促すには、「出社したくなる理由」を提供することが不可欠です。
(1)行きたくなるオフィスづくり
社員が自然と集まりたくなるオフィスには、共通した特徴があります。
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要素 |
内容 |
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快適性 |
照明・空調・家具が最適化されている |
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利便性 |
動線がスムーズでストレスが少ない |
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多様性 |
集中・交流・休憩など目的別の空間がある |
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デザイン性 |
企業文化が感じられる洗練された空間 |
特に「自宅より働きやすい」と感じられる要素があるほど、出社率は自然に上がります。
(2)ハイブリッドワークに対応した会議環境
出社回帰が進んだとしても、リモート参加者との共存は続きます。そのため、高品質な音響・映像設備を備えたミーティング環境が重要になります。
快適なハイブリッド会議が実現することで、対面とオンラインのバランスが整い、出社の目的性が明確になります。
5. 出社回帰で成果を上げた企業の成功事例

出社回帰の取り組みは、企業規模や業種によって効果が異なりますが、実際には成功事例が数多く存在しています。
ここでは、A社(IT系プロダクト開発企業) と B社(全国展開のサービス業グループ企業) の2社を例に、出社回帰がどのように成果につながったのか、その背景と結果を整理します。
両社に共通するのは、「出社を義務化する」のではなく、出社する価値をデザインすることに成功した点です。
(1)A社:週2出社ルールで開発スピードが向上
〜IT系プロダクト開発企業(従業員約300名)〜
A社はソフトウェアプロダクトを開発するIT企業で、完全リモート体制下でプロジェクト遅延や部門間の認識齟齬が増加していました。特に、UI/UX 部門とエンジニア、営業チーム間の連携不足が目立ち、情報共有の質が低下していたことが課題でした。
この状況を受け A社は 週2日の出社日を設定し、協働が必要な業務を対面の日に集中させる運用へと切り替えました。
<A社が行った主な改善施策>
- 対面で議論すべき業務を明確化
- 雑談・相談が自然に生まれるオフィスレイアウトへ調整
- 出社日の目的性を社員に共有し納得感を醸成
▼出社回帰による改善効果
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改善項目 |
成果 |
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情報共有 |
対面打合せの増加により共有漏れが約40%減少 |
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意思決定 |
部門間の調整が迅速化し承認リードタイムが1.3倍改善 |
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開発速度 |
仕様調整がスムーズになりリリースサイクルが短縮 |
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チーム連携 |
偶発的な会話が増え、課題把握のタイミングが早期化 |
これにより、A社は“出社する意味のある働き方”を実現し、社員からの受け入れもスムーズでした。
(2)B社:オフィス再設計により出社率が50%以上向上
〜全国でサービス店舗を展開する大手グループ企業(従業員約2,000名)〜
B社はサービス業を中心に多事業を展開する大手企業で、本社機能の大半をリモート化していた時期には「コミュニケーション不足」「新卒オンボーディングの停滞」が問題視されていました。
そこでB社は オフィスを全面リニューアルし、「働きやすさ」と「文化醸成」を両立する空間づくりを実施しました。
<B社が行った主な改善施策>
(オフィスリニューアルの内容)
- 遮音性の高い集中ブースの増設
- カフェ風ラウンジ(コミュニティスペース)を新設
- 主要導線の見直しで滞留ポイントを解消
- ハイブリッド会議に最適化した視聴・音響設備への刷新
- 来客スペースと執務エリアの動線を分離しストレスを軽減
▼リニューアル後の成果(B社)
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項目 |
成果・変化 |
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出社率 |
以前の1.5倍(約52%増)へ大幅上昇 |
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集中度 |
「自宅より集中できる」と回答した社員が多数派へ |
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コミュニケーション |
偶発的な会話が増えたと約7割が回答 |
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文化浸透 |
「会社との一体感が戻った」という声が急増 |
特に注目されたのは、社員アンケートで 「働く環境が整うと業務の質が上がる」 と回答した割合が大幅に増えたことです。B社の取り組みは、オフィスが単なる作業場ではなく “働く体験そのものをデザインする装置” であることを証明する好例と言えます。
6. 出社回帰で失敗する企業の共通点

出社回帰を進める企業が増える一方で、期待した成果が得られず、むしろ社員の不満や離職につながってしまうケースも存在します。これらの企業に共通しているのは、出社施策を“制度”として導入するだけで、社員の働き方や心理を十分に理解していない点です。出社回帰は単なる業務指示ではなく、働く体験全体を再設計する取り組みであるため、導入方法を誤ると大きな逆効果を招きます。
ここでは、失敗企業に見られる典型的なパターンを整理します。
(1)“出社させること”が目的になってしまう
本来は「生産性向上」「連携強化」「育成の高度化」などが目的であるはずが、いつの間にか“出社そのもの”が目的化する企業が少なくありません。こうした企業では、出社ルールがトップダウンで突然導入され、社員の納得感が得られないまま強制力だけが先行してしまいます。結果として、社員は制度に従うだけの受動的な姿勢になり、生産性が上がるどころかモチベーションが低下することすらあります。
さらに、理由が曖昧な出社要請は「何のためにオフィスに行くのか?」という疑問を生み、反発や不信感につながりやすくなります。社員の視点が欠けている施策は、たとえルールとして形だけ整っていても、期待される組織改善には結びつきません。
(2)出社する価値の提供が不十分
出社を求める以上、オフィスには“出社するだけの価値”が備わっている必要があります。しかし、失敗する企業ほど、オフィス環境が旧来のままであったり、コミュニケーションが生まれにくい配置のままであったりと、体験価値の向上が伴っていません。結果として、社員は「自宅の方が集中できる」「会議はオンラインで十分」と判断し、出社のメリットを感じられないまま不満を抱くようになります。
特に、集中スペースが不足していたり、導線が悪いオフィスの場合、出社はむしろストレス要因となってしまいます。本来、出社回帰は働き方の最適化を目的とすべきですが、価値が提供されない状態での出社要請は、「負担が増えただけ」という印象を与え、施策の信頼性を大きく損ないます。
このような失敗を避けるためには、社員が実際に感じている課題を把握し、出社することで得られるメリットを具体的に提示することが不可欠です。
7. 出社回帰とハイブリッドワークの最適解

出社回帰が進む一方で、リモートワークの利便性が完全に否定されたわけではありません。むしろ、多くの企業は「出社一辺倒」でも「完全リモート」でもない、第三の選択肢としてのハイブリッドワークを模索しています。
これは、働く場所を固定するのではなく、業務特性や個人の働き方に合わせて最適化する柔軟なモデルであり、ニューノーマル時代の標準となりつつあります。企業に求められているのは、対面・オンラインの両方の利点を最大限に活かし、組織としてのパフォーマンスを高める運用設計です。
(1)役割に応じて働く場所を選ぶ時代へ
ハイブリッドワークの本質は「業務内容ごとに最適な場所を選択できる状態」をつくることにあります。すべての業務をオフィスで行う必要も、自宅で完結させる必要もありません。たとえば、資料作成のような集中型業務は自宅でも十分成果を出しやすい一方で、企画検討やレビュー、意思決定を伴う議論は対面の方がスムーズに進む傾向があります。このように、仕事内容に応じて場所を選ぶスタイルは、社員の自主性と効率性を同時に高めます。
この考え方を浸透させるためには、企業側が「どの仕事は対面が望ましいか」「どの仕事はリモートで問題ないか」を明文化し、社員が判断しやすい指針を示す必要があります。明確なルールがあることで、社員は迷いなく働く場所を選べるようになり、結果として “場所に縛られない高い生産性” が実現します。
(2)オフィスは“価値を生む場”として進化する
出社回帰の流れの中で、オフィスはこれまで以上に“価値創出の拠点”としての期待が高まっています。単に作業を行う場所ではなく、人と情報が交わり、創造性や連携が生まれる場としての役割が強化されているのです。企業はこの役割を明確にするため、オフィスに「交流」「学習」「協働」といった機能を積極的に組み込み、社員が出社することで得られる体験価値を高めています。
また、オフィスは企業文化を体感し、帰属意識を高める場としても機能します。リモート環境では感じ取りにくかった「空気感」「一体感」「価値観の共有」を、オフィスは自然に届けることができます。こうした文化的価値は、オンラインでは代替が難しく、ハイブリッドワークにおけるオフィスの重要性を裏付ける要素でもあります。
さらに、オフィスを“価値を生む場”と位置づけることで、企業はレイアウト・設備・導線の設計においても「成果につながる空間」を意識するようになります。これにより、社員は出社するたびに目的を持って活動でき、企業側も 出社=付加価値の創出 という構造を強固にすることができます。
8. まとめ

完全リモートから出社回帰へ向かう流れは、一時的なトレンドではなく、企業が持続的に成長するための必然的な選択と言えます。情報共有、育成、連携、文化浸透といった要素は、対面だからこそ強化される部分が多く、オフィスはその中心的役割を担います。
一方で、出社を“強制”するのではなく、社員が自然と集まりたくなる環境づくりこそが最も重要です。企業は、オフィスを再評価し、ハイブリッドワークを前提にした新しい働き方のデザインに踏み出す必要があります。
出社回帰の先にあるのは、単なる旧来の働き方ではなく、オフィスの価値が最大化され、組織力が高まる未来です。その未来を実現するためには、オフィス改革と働き方改革を一体で捉え、継続的に改善していく姿勢が求められます。
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